OSDL ニュースレター - 2003 年 3 月 |
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目次
- OSDL のカーネル 2.5 への移行
- エンジニアリングアップデート
- キャリアグレード Linux ワーキンググループからのお知らせ
- データセンタ Linux のアップデート
- Witham の言葉
1. OSDL のカーネル 2.5 の運用テスト
Bob Knopp ()
オペレーションマネージャ
新しいオペレーティングシステム、大幅に変更された OS が公開されると、IT 関連企業はいつも、若干の興味と少なからぬ懐疑心を抱いてそれを眺めるものです。なにしろ新しいシステムには「実世界」の実績がないのですから。OS アップグレードの定跡は「最新リビジョンの少なくとも 1 つ前にとどめておく」というものです。私の場合「大規模システムで賭けに出るのは他人にまかせろ」となります。もちろん話はそう単純ではありません。リスクをとってでも使ってみたい、と思わされるような大きな魅力が、新しい OS にはしばしば備わっているからです。私たちは、Linux カーネル 2.6 がまさに、そのような新しいソフトウェアになると感じています。ただし誰かがまず実際に使用し、うまく動くことを示してくれればの話ですが。
OSDL のスタッフはカーネル 2.5 の開発とテストに当初から関わっており、開発ブランチとしては非常に安定しているようだという認識を得ています。実際もう実稼働環境でテストできる段階にあると思えるほどの出来です。私たちは、当ラボ データセンタの実稼動環境を使ったカーネル 2.5 のテストプロジェクトを計画し、実行しはじめました。このプロジェクトは、多くのテスト、不用意に行き過ぎることを防ぐ多くの回避手段から構成されています。プロジェクトは比較的シンプルで重要性の低いサーバから始められ、実績が積まれるのに伴いより複雑なサーバへと移行します。現時点では数台のサーバでカーネル 2.5 が稼働中であり、1 か月中には当データセンタの大部分が 2.5 へ移行する予定です。
データセンタでは、この規模の変更を行う場合は各サーバに対して非常に慎重な計画が必要です。失敗は許されないので、移行は徐々に行っています。当ラボのデータセンタをもって「これは開発カーネルですが十分安定しており、すでに日常の使用が可能です」と言えるようになれば、このプロジェクトは決着したといえるでしょう。経過は次号以降のニュースレターでご報告します。
2. エンジニアリングアップデート
Linux Kernel/User Communication および sysfs 関連のレポートを OLS にて発表
John Cherry ()
エンジニアリングマネージャ
2003 年 7 月 23 - 26 日に行われる Ottawa Linux Symposium において、Pat Mochel が Linux Kernel/User Communication と題するレポートを発表します。
Linux カーネルには、デバイスおよびサブシステム通知メッセージをユーザ空間に配信するメカニズムがいくつかあります。その中で推奨されるのが /sbin/hotplug です。他のメカニズムに比べ、カーネルユーザへのインターフェースが単純であり、かつユーザ空間ポリシーのプラグインアーキテクチャも比較的単純であるからです。カーネル 2.5 でのドライバモデルの進化は /sbin/hotplug の呼び出しに集約されており、これによりサブシステムがユーザ通知をより簡単に行えるようなりました。
Pat の発表では、他の既存の通知メカニズム(procfs、sysfs、デバイスノードなど)と比較しながら、/sbin/hotplug の優位性について説明が行われます。カーネル 2.7 以降での解決が期待される /sbin/hotplug のいくつかの課題点もテーマになっています。
新しいドライバモデルと sysfs に関する OLS での発表
Pat は昨年、新しいドライバモデルとカーネルデータ構造の sysfs 表現に関するレポートを発表しました。今年はそれを受け、ドライバモデルや sysfs をテーマの中心に置いたり言及したりする発表者が数名います。
OLS で発表されるデバイスモデルに関するレポートには、次のものがあります。
Integrating DMA into the Generic Device Model(James Bottomley)
Porting Device Drivers to 2.6(Jonathan M. Corbet)
Power Management and Device Discovery on Embedded Systems(David W. Gibson)
udev - A Userspace Implementation of devfs(Greg Kroah-Hartman)
3. キャリアグレード Linux ワーキンググループからのお知らせ
Mika Kukkonen()
キャリアグレード Linux ロードマップコーディネータ
私たちは、これまで作業してきたバージョン 2 の仕様について、最初のパブリックドラフトを発表するところまで来ています。公表は 3 月末の予定です。
まだ初期のドラフトではありますが、「早期に発表、頻繁に発表」の理念のもとにリリースします。皆様からコメントをいただきながら、足りない部分を網羅して拡充し、変更していきたいと思います。
バージョン 1 の仕様決定過程ではパブリックドラフトをリリースしなかったため、今回のドラフト公開は CGL 仕様決定プロセスの重要な変更点といえます。これらのドラフトに関するコミュニティの皆様からのご意見をお待ちしております。
この仕様は現在のところ、セキュリティ対策、クラスタリング、および主要カテゴリに属さない個別機能の 3 つに分類されています。この 3 つのドキュメントは、最終バージョンで 1 つのドキュメントにまとめられます。
これらのドキュメントおよびその他のアップデートに関するアナウンスは、cgl_info メーリングリストに送信されます。このメーリングリストには、次のサイトから登録してください。
http://lists.osdl.org/mailman/listinfo/cgl_info
仕様に関するご意見は、公開ディスカッション用メーリングリスト cgl_discussion まで送信してください。
このメーリングリストには、次のサイトから登録してください。
http://lists.osdl.org/mailman/listinfo/cgl_discussion
ご意見やご質問をお待ちしています。 までお寄せください。
4. データセンタ Linux のアップデート
Stephen Hemminger()
データセンタ Linux ロードマップコーディネータ
Linux 2.5 カーネルコンジットのアップデート
Linux「コンジット」カーネルソースツリーには、DCL および CGL の要件を満たすプロジェクトが格納されています。このソースツリーは kernel.org からつねに最新のカーネルを取り込んでおり、データセンタ Linux のロードマップに沿った機能および OSDL のテストマシン上でのカーネルブートに必要なアップデートを含んでいます。
先月からの主な変更点は次のとおりです。
「-osdl」と「-dcl」ツリーがマージされました。これまで別々のツリーにしていたのは、NUMA と hi-res timers が基本カーネルにマージされるまでの一時的な措置でした。今後は「-osdl」カーネルと呼ばれるカーネルツリーはひとつになります。
Complete Fair Queuing および Anticipatory Scheduler を -mm ツリーから追加しました。
カーネルブートコマンドラインからスケジューラを選択するには、次のいずれかを選択します。
Anticipatory Scheduler(AS):
elevator=as
Complete Fairness Queuing(CFQ)スケジューラ :
elevator=cfq
Deadline Scheduler:
elevator=deadline
スケジューラオプションを指定しない場合、Deadline Scheduler がデフォルトです。
注: Anticipatory Scheduler は実験的なものであり、一部のシステム上ではブートしない可能性があります。
先月のニュースレター以降の変更点に関する詳細情報を次に示します。
2.5.63-osdl3 -
最新の Linux カーネルクラッシュダンプ(LKCD)との整合
2.5.63-mm2 から最新の AS スケジューラにアップデート
Linux トレースキット(LTT)とLinux カーネルクラッシュダンプ(LKCD)をオンにするよう defconfig を設定 -(Stephen Hemminger)
2.5.63-osdl2 -
デフォルトの IO スケジューラを Deadline Scheduler に設定(Stephen Hemminger)
改善された flock のバグ修正(Matthew Wilcox)
2.5.63-osdl1 -
Megaraid 2 ドライバへのアップデート -(Matt Domsch、Mark Haverkamp)
CPU Hot Plug -(Zwane Mwaikambo)
Complete Fair Queuing(CFQ)ディスクスケジューラ -(Jens Axboe)
Anticipatory Scheduler -(Nick Piggin)
Pentium Performance Counters -(Mikael Pettersson)
Linux カーネルクラッシュダンプ(LKCD)-(Matt Robinson、LKCD チーム)
Kernel Exec(Kexec)-(Eric W. Biederman)
Linux トレースキット(LTT)-(Karim Yaghmour)
Kernel Config(ikconfig)-(Randy Dunlap)
改善された TSC ブート時の同期 - (Jim Houston)
RCU 統計データ - (Dipankar Sarma)
スケジューラを調整可能にする - (Robert Love)
最新リリースのツリーは、次のサイトからダウンロードしていただけます。
http:/sourceforge.net/projects/osdldcl
BitKeeper からも入手可能です。
bk://bk.osdl.org/linux-2.5-osdl
または、OSDL Patch Lifecycle Manager(http://www.osdl.org/cgi-bin/plm/)からも入手できます。
OSDL DCL カーネルロードマップのアップデート
ロードマップは進化を続けています。現在、DCL ワーキンググループはカーネル 2.7 用の機能リストを作成しており、この夏開催される Linux Kernel Summit で発表する予定です。現在のロードマップは、次のサイトでご覧いただけます。
http://www.osdl.org/docs/dcl_roadmap.pdf
-osdl ツリー、DCL ロードマップ、またはデータセンタ Linux ワーキンググループに関するご質問がありましたら、 までお寄せください。
5. Witham の言葉
Timothy Witham()
ラボディレクタ
Linux 環境でのテスト
OSDL では、DBT テストのアナウンスを行いました。このアナウンスと詳細な情報は、osdl.org のサイトにあります。これらは、プロプライエタリなオペレーティングシステムベンダが使用しているものと同じタイプのデータベースパフォーマンスツールを Linux 開発環境に導入することを目的としたエンジニアリングテストです。幸先いい出足ですが、まだ始まりにすぎません。
この 2 月、私は Linux へ移行中の有力な IT ショップを訪れました。主要な話題のひとつは、同社がどのようにしてオープンソースコミュニティに参加できるか、というものでした。その中で、内部ワークロードのサイジングと分析のために彼らが開発してきた内部テストのいくつかを DBT テストと同じかたちで公開する、という可能性が浮上しました。これには「実世界」のデータベーステストをオープンソースコミュニティにもたらすという利点があります。
IT ショップがなぜそんなことをしなければならないのか、と疑問に思われるかもしれません。
簡潔な答えはこうです。自社の環境そのものを、Linux 開発コミュニティが新機能の適切なパフォーマンスレベルを決定するためのテストにしてもらうこと。自社の環境に対する Linux のサポートを間違いないものにする上で、これ以上の妙案があるでしょうか。
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